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男性が私の電話番号を尋ねるのは、同窓会かなにかの名簿を作るためだったり、ほかの女の子の連絡先を、後でコッソリ私に聞きたいから、だったのだ。
Hさんが私の電話番号を尋ねた時も、その程度に考えていた。 ところが、彼はほんとに電話をかけてきた。
しかも、ほかの女性の電話番号を尋ねたりはしなかった。 なんて、紳士なヒトでしょう。
彼の電話はいつも、こんなふうだった。 「×時に池袋の西武線の乗り場で」食事だけでなく、電話でも即断即決。
私の都合を聞くのは、いちおう、という感じ。 いってみれば、「○日、×時、キタレ」という電報のような電話だった。

受話器を置くと、私はまるで、闇鍋に箸を突っ込む時のような気分になった。 いったい、どこへ行って、何をするんだろう……。
「これって、デートじゃないの?」まだ半信半疑だった。 私は期待と不安で、複雑な気持ちになった。
よく考えたら、私は人妻だった(よく考えるまでもないけれど)。 ホイホイ、デートの誘いに応じて良いものだろうか。
良いわけ、ない。 私は、私自身に対する言い訳を必死に考えることにした。
他人への言い訳はテキトーにできても、自分を納得させるのは大変なものである。 たしか、彼に会った時、私は結婚指輪をしていたこともあったはずだ(私はつけたり、はずしたりマチマチだった)。
それなのに、誘ってくるということは、私が結婚しているかどうかは、彼には関係ないんじゃないか?なんてつたって、彼は作家だからなぁ。 常識にとらわれた発想はしないだろう。

だったら、かまわないかも。 夫が驚いて聞く。
「あれ、今日は早いね」会社をやめた後、夫を見送るのは、お布団の中になっていた私。 「うん。
Kチャンと遊びに行くんだ」私はやめた会社の、同僚の名前を出した。 「ふ〜ん。
じゃ、東京に行くの?」と、いきなり手をつないでホテルに入ることにはなるまい。 妻のテーソウを守ればセーフ。
う〜ん、う〜ん……。 こんなにアタマを使ったことはないんじゃないか、というくらい理屈をこれてみたが、どんな言い訳も納得できるものではなかった。
当たり前だけど。 それでも、このトキメキを打ち切る気にはなれなかった。
私はただたんに、楽しみたい、それだけだった。 わからないはずなんてないのに、夫は深く追及しなかった。

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